1.親が押さえておくべき基本~そもそも財産分与とは~
離婚に伴う財産分与というのは、結婚中に夫婦で形成した財産を、離婚の時には2分の1ずつ分けて公平に取得できるようにする制度のことです。
結婚生活を始めるときは、双方ともにそれなりの財産を持っていることが多く、最初から夫婦の共同の財産というものがあるわけではありませんが、事業と同じように、最初に夫婦双方がそれぞれ持っている財産を出し合って、次第に夫婦の財産といえるような財産を形成していくこととなります。財産を形成して、維持していくためには、例えば、家政婦を雇わないで家事労働の労働を提供するというような貢献の仕方もあります。
離婚の時には、このようにして形成された財産を分けていくこととなりますが、共有名義の財産はあまり多くありません。夫名義の財産と妻名義の財産、あるいは子どもたち名義の財産がある場合が圧倒的です。妻名義の財産と夫名義の財産はいずれも財産分与の対象財産としてカウントされていきます。夫名義の不動産、預貯金、投資商品などのプラスの財産、住宅ローン、自動車ローンなどのマイナスの財産、妻名義についても同様ですが、これらプラスマイナスの財産全部を合算してみて、プラスの部分が出れば、そのプラスの部分の半分ずつを双方が取得できるようにするイメージです。
夫名義の夫が支配する財産額がその金額を超えているような場合には、その差額分を妻に財産分与として渡すことになるわけです。
財産分与の計算イメージはこのとおりですが、合算する対象から外す財産として「特有財産」と言われるものがあります。典型的なものは、結婚中に親から贈与されたり、相続した財産です。このような特有財産は、合算の計算からははずしていきます。
財産分与をする際には、財産分与の対象財産を合算していく作業のほかに、どの比率で夫婦に配分するかという別の問題があります。原則としては、この比率は2分の1です。勤労所得・事業所得のように直接、財産を獲得する貢献のほかに、家事労働のように無償であっても、財産を維持する上で無視できないものもあります。それぞれの貢献度の性質は違いますので、比較のしようがありません。そのため、平等なものとして割り切って、原則として2分の1であると定められています。
しかし、財産形成への貢献度が明確な場合、例えば、一方配偶者が医師であり、多額の財産形成は医師免許によるものである場合には、分与率は2分の1ではなく、7:3もしくは8:2とされるケースもあります。
2.親が出した「住宅購入の頭金」は財産分与でどう扱われる?
住宅を購入する場合に、頭金を親から出してもらって、残額について住宅ローンを組むケースがときどき見られます。
頭金の援助が法律的に親からの贈与なのか、あくまでも借金なのかは、ケースバイケースです。特に、親から子への住宅資金贈与に関する贈与税の非課税特例制度が設けられてからは、贈与のケースも見られるようになっています。この場合には、申告が必要ですので、贈与税の申告書の控えがあれば、それが贈与の証拠となります。
反対に、住宅資金の貸し付けの借用証書などがあれば、それは借金の証拠となります。
親が出した住宅購入の頭金が借金であれば、財産分与の対象財産の合算のプロセスで、マイナス要素として、住宅ローンの残債務と同様に、残債務額を差し引きます。
贈与を受けた場合には、特有財産となりそうですが、贈与されたまま現金で残存しているわけではなく、住宅(土地・建物)に化けてしまっていて、夫婦の出資額も混入してしまっていますので、財産分与の対象財産としては、単純に土地と建物の評価額を合算し、ただ、貢献度ということでいえば、贈与を受けて頭金を出した配偶者側が住宅獲得については貢献度が大きかったということになり、分与率を住宅については2分の1から6:4に修正していく考え方ができます。裁判例の中には、財産ごとに夫婦の形成維持の貢献度が違う場合には、各財産ごとに分与率を細かく認定判断した事例も見られるところです。
貸し付けに過ぎないと主張する場合には、借用証書があればわかりやすいところですが、親族間で金銭貸借の際にきちんと借用書を作るとは限りません。そうなると、最終的には、裁判所の判断次第ということですが、借入であるという主張は通りにくいと思われます。
3.親の土地に建てた家・二世帯住宅のケース
住宅については、夫婦のどちらかの親の所有地上に、建物だけを建てるケースも珍しくありません。
多く見られるものは敷地の名義は親のままで、建物だけを夫婦のどちらかもしくは双方の共有とするものです。明確に借地権のような敷地利用権の設定を受けていないことが多いですし、現実に、親に地代を支払っていることはあまり見かけませんが、住宅ローンを組む場合には、親の土地と夫婦の建物とを共同抵当に入れて融資を実行してもらうことができるので、よく利用されています。
財産分与の計算上は、住宅ローンの残債務が多額であることが多く、建物以外の夫婦財産を合算してみても、債務超過となってしまうことが多いため、分与対象財産はないこととなります。
とはいえ、そのままでは、離婚して他人になる嫁や婿は敷地利用権がないため、建物にとどまることは難しくなります。残債務の負担をどうするか、誰が居住するかも含めて、法律の財産分与の理屈にとらわれない柔軟な解決を調停でしていく必要が高い分野です。一つの考え方としては、建物に居住し続ける側が、住宅ローンの名義人でない場合には、住宅ローンについて債務引受をさせるという理屈も考えられますし、そのようにした裁判例もないではありませんが、一般的とはいえません。現実的には、住み続ける側が借り換えをして債務を自分に集めるやり方をとることが解決策となります。
また、あまり見られないケースですが、敷地を親が子に贈与または売り渡すなどして、土地も夫婦どちらかの名義になっていた場合には、通常の財産分与により清算することとなります。
さらに、二世帯住宅を建てた場合にも事態は深刻です。
二世帯住宅といっても、建物の構造が二世帯、別々に独立して生活できる構造になっているだけで、建物としては1棟で、所有者も夫婦の一方若しくは双方の共有名義であれば、それは理屈としては、財産分与により清算することとなりますが、同居していた親世帯が資金的にも出資していたとなると、話は難しくなります。親の支出が夫婦への援助であったのか、独立した生活区分としての本拠獲得の趣旨であったのかによっても、解決方針が変わってくることとなります。結論は一概には出しにくいところです。
また、二世帯住宅が明確に区分所有の建物として登記されていれば、親世帯が居住する部分は区分所有建物の別の専有部分である住戸ですから、夫婦の財産ではなく、財産分与では全く無関係として処理すればよいこととなります。マンションの場合と同様というわけです。
4.贈与・相続した財産は財産分与の対象になるのか
ここまでは、住宅に関してお話をしてきました。ここからは、また財産分与全般に関してお話をしていきます。
はじめにもお話ししましたように、婚姻中に夫婦の一方が贈与を受けたり、相続したりして取得した財産は、離婚に伴う財産分与の計算では合算の対象からはずされます。夫婦財産ではなくて、一方の「特有財産」であるという言い方をしますが、この意味です。
ただ、財産分与の対象として合算しない扱いをするためには、贈与を受けた財産、相続した財産が家計に混入しておらず、明確に残存していることが大前提です。
たとえ、特有財産であったとしても、それを家計口座に混入してしまえば、結婚当初に特有財産を家計に出資したのと同様に、夫婦財産となってしまい、あとは、その財産の形成に対する貢献度をどう見るかという問題になってしまいます。
その意味で、贈与や相続の対象財産が不動産などの場合には、家計に混入することが考えられないので、特有財産として、財産分与の計算をする際に除外することがやりやすいのですが、預貯金・保険商品等のような金融商品の場合には、家計に混入してしまいやすく、その一部だけが特有財産であるという主張は通りにくいのが実情です。
一つの提言として、こんな考え方もあります。
特有財産が夫婦財産である預金口座に混入したとしても、その預金口座にその後の入金が全くなく、残高が減り続けている一方であるという場合には、特有財産に夫婦財産である金銭の混入がないことになりますから、元の残高が特有財産であるとみていいことになります。他方で、入金が続くだけのケースでも、増加したのは夫婦財産だけということになりますから、元の金額が特有財産であると見ることに、やはり問題はないということになります。ただ、入出金が繰り返されている場合には、やはり、特有財産として見ることは難しくなるのではないかと考えられます。
5.結婚式費用・新生活の援助金はどう扱われるか
結婚式の費用や、新生活の援助金を親などから支出してもらっている場合には、若年世代での離婚では深刻な争いとなる場合があります。
とはいえ、結婚式関係の契約者が親であった場合には、単純に親が結婚式や披露宴の契約をして、自分の代金支払債務を履行しただけですので、夫婦の財産分与で清算すべき負債ではありません。
また、新生活の家具家電製品の購入費用を親から援助してもらう場合には、やはり、家具や家電は夫婦財産として家計に混入してしまっていますので、ふつうに財産分与の夫婦財産として合算して2分の1で清算するのが理屈ということになります。
とはいえ、若年世代での離婚では、まさに挙式披露宴の費用が300万円近くになって、それが短期間で無駄になったことや、家具電化製品などは中古品として価額評価・金銭換算をした場合には、二束三文にしかならないのに、支出額は大きいことから、そのような理屈通りの解決では納得が得られないことがほとんどです。
そのため、結婚式・披露宴費用の一部について負担を求めたり、家具・電化製品については取得する側から、購入時に代金を支払った側に解決金を支払ってもらうなどの柔軟な話し合い解決を調停で求めていくことが大切かも知れません。
6.「損をしない」ために、今からできる3つの備え
親から相続や贈与で受け取った財産は、離婚時の清算にあたっても、あくまでも自分自身のもので、離婚する配偶者には権利は全くないものとして取り扱って欲しいのは人情です。
しかし、紛争になった場合には、何らかの証拠がなければ、調停委員も裁判官も納得してくれません。
住宅資金の援助の場合には、それが貸付であれば借用証書は取っておきたいものです。また、贈与であれば、贈与特例の贈与税申告書控えは必ず保存しておきましょう。贈与契約書を作成する場合には、それが贈与であることを明示しておき、他の実方親族と後日トラブルにならないためにも、特別受益の持戻免除の条項も入れておければベストです。
金融資産であれば、どうしても家計口座に一部混入してしまったり、保険商品であれば満期に別の保険商品に掛け替えていく途中で被保険者を離婚したい配偶者にしてしまったり、掛け替えの際に家計費でかけていた保険商品の満期分と合わせてしまって、家計に混入しがちです。可能であれば、金融商品はそのままの形で定期預金にでもして、残存するようにしておきたいものです。
7.すでに離婚話が始まってしまったら~親がとるべき行動~
離婚紛争の渦中にいる当人たちにはなかなか余裕がありません。周囲にいて、心配しながらも、ある程度の距離を取れる親御さんの援助は離婚時には大変に貴重ですし、有益だと思われます。
離婚に際して必要な証拠等は当事者である子どもたちに集めさせる必要がありますが、家計管理、給料管理、預金管理、税金・ローンの支払管理について、また、学校・保育園対応を誰がやっているのかなどについても、日頃から、子ども夫婦の状況をそれとなく把握しておくのが大切です。
そのうえで、可能であれば、当事者であるお子さんが悩んで自分では動きにくい段階でも、どのような資料をどのタイミングで(別居前にしないといけないか、別居後でも大丈夫なのか)集めるべきかについて、お子さんに代わって親御さんが弁護士に法律相談することが有益であると思います。
事前にどのような資料が必要かを、敷居が高いと思っている弁護士に自分が直接聞かなくてもよく、親からすでに聞いてもらっているという安心感と、信頼している親が既に弁護士と面識ができていれば、少なくともその弁護士には話しやすいという安心感も生まれてきます。
8.子の離婚に伴う問題は、新山口法律事務所にご相談ください
当事務所では、親御さんから、事前に子どもの離婚に備えて、知っておきたいというご相談を開業以来、頻繁に受けてきております。気になるときには、ご予約の上でご相談ください。




