1.歯科医師の離婚が揉めやすい・長引きやすい3つの理由
歯科医師の方の離婚問題も扱うことがありますが、なかなか短期解決になりにくい、難しい類型の案件です。
① 収入が高く、分与対象となる財産が高額になりやすい
一般的に、歯科医師のご夫婦の場合には、お手持ちの財産も、不動産、金融資産、自動車いずれをとっても、高価なものが多いことが指摘できます。もちろん、すべてのご夫妻でそうだというわけではありませんが、不動産も自動車も高額なものを購入されている場合も少なくありません。
それが、歯科医師ではない配偶者からの財産分与請求等に対する期待値を上げてしまいがちです。
② 開業医の場合、クリニックの資産と個人の財産の区別が難しい
勤務医である歯科医師の給与収入ももちろん高額です。そして、開業医である歯科医師の売り上げも莫大なものにのぼることが一般です。財産としても、節税対策として、高額な自動車等の資産を保有していたり、医療用の高額な危機を保有していることも通例です。
歯科医師でない配偶者からすれば、ふだんの結婚生活では、それらの資産が所有なのか、リースなのか、リース料がどの程度の支払いになっているのか、所有だとすると、所有名義人は歯科医師個人なのか、医療法人であるクリニックなのか、といったことには無頓着ですが、いざ、離婚に伴う財産分与ということになると、そのあたりの事情が重要になってきます。
③ 多忙によるすれ違いや、不倫(不貞行為)が原因になりやすい?
離婚原因は、歯科医師であるからといって、特別なものになるわけではありませんが、手持ちの資金が多いことと、開業医の場合には、時間を自由に使える側面があることなどから、不倫が引き金になることも見られます。歯科医師の場合には、ご本人的には不倫だと思っていても、単なるパパ活の餌食に過ぎないこともあります。
また、経営が順調な歯科医師の場合と違い、経営・労務管理がうまくいかない歯科医師の場合には、仕事のストレス発散を家庭でするために、モラハラ的な言動に陥って家庭を崩壊させることもあります。さらに、ハイソサエティな生活レベルに勘違いをして、裕福な生活水準を当たり前であるかのように誤解して、歯科医師の配偶者を困惑させる妻も散見されます。
2.歯科医師との離婚での「財産分与」の注意
① 勤務医の場合
勤務医の歯科医師の離婚問題の場合には、離婚に伴う財産分与の問題は数字の桁が違うことがあるくらいで、基本的には、サラリーマンの離婚の場合と変わりません。ただ、勤務医の歯科医師の場合には、所属する医局の都合で、勤務先を変更になる場合が多いため、離婚が見込まれる時期に、いったん現在の勤務病院を退職して、別の病院に移る予定がある場合には、退職金についても掌握しておく必要があります。支給予定額・支給時期は別居する前に把握しておきたいものです。
② 開業医(個人事業主)の場合
開業医の歯科医師と一口に言っても、個人事業主として開業している場合と、医療法人の役員として経営している場合とに分かれます。
個人事業主の場合には、どんな資産があり、どんな借入金があるのか、といったことは確定申告書をみれば一目瞭然ですので、別居前に、確定申告書の控えのコピーを取っておくことが望ましいです。また、医療機器は高額ですが、多くは、リース品であるため、所有権が歯科医師個人に属していないことも多いため、リースかどうかも要確認です。
そのうえで、預貯金・金融資産の把握をしておく必要があることは一般の夫婦の場合と変わりません。
③ 開業医(医療法人)の場合
開業時期が古く、医療法人設立が平成19年3月以前である場合には、医療法人は、昔の有限会社と同様に、持分を有する経営者が集団でクリニックを所有して経営する形態をとっていました。医療法人を構成する持分は、昔の有限会社の持分と同様に、閉鎖的ではあっても、財産価値のあるものとして、金銭評価になじむものであるため、離婚に伴う財産分与のときには、歯科医師である夫のみならず、妻もまた持分を有することもよく見られました。
離婚に伴う財産分与に際しては、これらの持分も分与の対象となる財産としてカウントした上で、分与率を乗じて、財産分与していくこととなります。
しかしながら、平成18年の医療法改正(平成19年4月施行)により、医療法人は公益性の高いものとして、持分型の医療法人は廃止されることとなりましたので、医療法人設立が平成19年4月以降である場合には、持分は歯科医師個人に帰属するものではなくなりましたので、離婚に伴う財産分与の対象としてカウントされることもなくなりました。
医療法人の場合には、むしろ、医療法人としての借入をメインバンクなどからする場合には、役員保証を求められて、歯科医師個人が医療法人の資金繰りの借入債務の連帯保証人であることが少なくありません。役員保証債務には要注意です。
別居時に残存債務がある限り、それもまた財産分与の対象財産としてカウントされますので、仮に、開業時の借入金や医療機器のリース代等の債務について、歯科医師個人が役員保証している場合には、別居時の残債務額がマイナスとして分与対象財産額を減少させてしまうことには注意をしておきましょう。
3.歯科医師の離婚における「婚姻費用」と「養育費」
① 離婚までの別居期間中の生活費(婚姻費用)と、離婚後の子どもの生活費(養育費)は、現在では、最高裁判所のホームページに公表されている「算定表」で取り決められることが一般です。
しかし、勤務医であれ、開業医であれ、歯科医師の場合には、総収入の年収額が、「算定表」の想定する領域を超えてしまい、算定表では該当部分が見あたらないことも珍しくありません。
その場合には、算定表のベースになっている、標準的算定方式という算定方法に従って、試算します。試算の仕方は、弁護士にご相談ください。
② また、大学進学費用や成人後、20歳に達した後の子どもの生活費については、一般の夫婦の離婚の場合でも問題になりがちなところですが、とりわけ、歯科医師の場合には、子弟を医歯薬関連学部に進学させる傾向が高く、その学費は高額になりがちですので、問題化しやすいです。
家庭環境的にみて、歯科医師の子どもである場合には、それまでの学業成績や学校外の補習、受験準備等も踏まえて、また、夫婦双方の学歴も見た上で、大学進学が当然であると見込まれる環境であれば、経済的には子ども自身は未成熟なままですので、大学卒業後経済的に自立するまでの間は、養育費請求をすることが可能であると考えられます。その際の大学への研究施設費等の高額な校納金については、標準的算定方式では折り込まれておらず、想定されていないものですので、ケースバイケースで協議していくしかありません。最終的には家庭裁判所で決めていくこととなりますが、確たる基準があるわけではありませんので、担当裁判官の裁量判断によることとなります。
③ さて、婚姻費用や養育費は、双方の年収すなわち、収入を基準にして決められていく仕組みとなっています。支出額の必要性がベースとなっているわけではありません。
勤務医の場合には、ごまかしようのないことが多いので、問題にはなりませんが、開業医の場合には、収入額確定の資料として、確定申告書が用いられることになりますが、露骨に売上除外・経費の架空計上のようなほ脱行為があるようであれば、税務署に通告することになりますが、そうでなくても、適法な会計処理であっても、実態のない支出が散見されることはあります。たとえば、青色申告特別控除額や減価償却費などです。青色申告特別控除は税務申告上は損金算入が許されますが、実際には現金支出の実態はありません。同様に、減価償却費も損金算入が許されますが、実際に現金を支出したのは減価償却資産を購入した年であって、今ではありません。その意味では、今、計上されている減価償却費は現金支出の実態のないものです。こうした実態のない支出は、収入に戻し入れて、婚姻費用や養育費を算出していくこととなります。
4.歯科医師の離婚における「慰謝料」の相場と注意点
日本の法制度上は、慰謝料というのはそれほど高額になるわけではありません。海外では、懲罰的な慰謝料として高額化している国もあるようですが、日本では、不倫の場合には150万円前後、DVの場合であっても慰謝料が高額なわけではありません。
このことは、加害者が歯科医師であろうと、医師であろうと、収入が高いと言うだけで慰謝料金額が高額になることはありません。また、慰謝料が納得できない金額だからといって、財産分与でその分を稼ぐことができるわけではありません。
5.歯科医師との離婚を有利に進めるための準備・ポイント
① 経済資料の確保
高額所得者である歯科医師を相手に離婚する場合には、生活水準を落としたくないため、高額な離婚給付を得たいと願うのは人情ですが、そのためには、準備が必要です。
まず、医療法人の財産は除外する必要がありますから、歯科医師の配偶者の個人財産を正確に掌握してください。確定申告書の控えをコピーしておく、預貯金・保険商品・株式等の有価証券類などの金融商品の状況を把握しておくことはもちろんです。
他方で、住宅ローン、自動車ローンはもちろんとして、医療機器のリース契約・リース料金の支払額の把握、医療法人もしくは個人事業主としてのクリニックの事業資金の借入金債務や役員保証債務の残債務額も把握しておく必要があります。
② 不倫やDVがある場合の証拠の確保
離婚の話を切り出してしまえば、証拠の確保は難しくなります。特に、歯科医師に不倫があったり、激しいDVがあったりする場合には、その証拠写真や映像証拠だけでなく、それによる医学的診断書等も確保していく必要があります。
6.歯科医師の離婚問題を弁護士に依頼するメリット
歯科医師を相手にする離婚の場合には、財産関係の資料収集には、弁護士の助言が必要不可欠です。また、歯科医師の離婚の場合には、妻もまた歯科医師・歯科衛生士・医療秘書であるなど、同一クリニックのスタッフであることも珍しくありません。対応の仕方には配慮を要することが多いのが歯科医師の離婚問題の特徴です。その意味では、まさにケースバイケースです。
財産分与関係だけでなく、子どもの進学問題などを含む養育費の算定についても、算定表だけでは処理できない問題が多数生じてきます。
DVモラハラ加害者である歯科医師との離婚の場合には、精神的ストレス自体を軽減することはできませんが、悩み続けてその場にとどまって前に進めない状態からは脱却していくこともできます。
そのうえで、高い生活水準はあくまでも、歯科医師という資格に付着していたおまけのようなものであって、離婚となった場合に、その生活水準に執着した形での満足を求めることまではできないということも認識しておく必要があります。
7.まとめ
歯科医師との離婚問題では、離婚を望む配偶者にとって、有利なこともあれば、当然だと思っていることが当然ではないという、厳しい現実に直面することもあります。ご自分の離婚の場合の現実的な着地点がどのようなものかを知るためには、弁護士にご相談ください。




