離婚に向けて勝手に家を出ると不利になる?『悪意の遺棄』と言われない正しい?別居手順と事前の準備

1.勝手に家を出るリスクと実態:「同居義務」と「悪意の遺棄」の基本

正式に婚姻届を提出した夫婦になると、法律上いくつもの義務が発生しますが、そのうちの一つが同居・協力・扶助義務といわれるものです。
 基本的には、婚姻した夫婦は同居して、協力しあって、扶助する義務があります。同居するというのは生計をともにすることです。
 ただし、高齢の親を介護するために親元で親と同居するために配偶者と別居するような場合、転勤を命じられて、単身赴任を選ぶ場合のように、別居であっても、協力扶助関係が維持されている場合には、いわば正当な別居として、同居・協力・扶助義務に反するものではないと考えられます。
 しかし、そのような合理的な理由があり、夫婦相互が了解納得している別居ではない、それ以外の場合には、同居義務違反として、法律上は、同居を求める調停や審判の申立てを家庭裁判所にすることが認められています。また、その場合には、こじれている夫婦関係を円満に調整してもらいたいという、夫婦関係円満調整調停の申立てを併用することもあります。
 ただ、あいにく、仮に同居を命じる審判が確定したとしても、強制執行をして同居を実現することはできないというのが判例ですので、そこから逆算して、同居の調停申立てをしても、家庭裁判所の中には、どうせ強制力がないんだから、ということで、テキトーにあしらうところもないではありません。
 また、転勤などのような合理的な理由がないのに、別居に踏み切る場合というのは、夫婦関係がこじれている場合がほとんどです。無理をして同居を続けることができない場合に別居するとしたらば、そのこと自体はやむを得ないでしょう。他方配偶者にDV、モラハラ、不倫などがあれば、なおさら、別居も致し方ないと考えられます。
 しかしながら、そのような事情すらなくて、単に嫌になったから別居したいということになると、別居自体はできるとしても、別居して家族の生活費も入れなかったり、さらには、置いてきた家族を追い出しにかかったり、離婚を一方的に強要して、別居先の不倫相手の家に転がり込むなどのように、極端なことをすると、法律上の離婚原因である「悪意の遺棄」に該当したり、経済的に結婚生活を破綻させたものとして「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当することがあります。家族を捨てて別居したとしても、扶助義務を免れることはできませんから、置き去りにされた配偶者から婚姻費用分担請求を受けた場合には、生活費を払わなければならないことは当然です。また、妻子を捨てて、経済的にも干上がらせるようなことをした場合には、それ自体が不法行為として、慰謝料等の請求を受けることも考えられます。

2.「悪意の遺棄」と言われないための正しい別居手順

それでは、あとから「悪意の遺棄」ではないかと言われないようにするために何か正しい別居手順があるかといえば、明確なものがあるわけではありません。
 理想的には、夫婦間で別居の協議をした上で、了解を得られればそれが一番いいわけですが、一方にモラハラ的言動があったり、メンヘラ気質があったりすれば、そのような話し合い自体が苦痛になってしまい、もちろん、話し合いがまとまることはありません。
 また、置き手紙を置いて家を出るということも見られなくもありませんが、追い詰められている状態で作成した置き手紙には、書かなくてもいいことを書いてしまったり、あとで、他方配偶者に揚げ足をとらせる手がかりを与えてしまうこともあります。
 結局のところ、ご自分の命と健康と相談して、避難するべきかどうか、を決めていくしかないと思われます。

3.後悔しない別居のために事前に準備しておくべき5つのポイント

正しい別居手順などというものは存在しませんが、将来的に離婚を見据えている場合には、同居中にしかできない作業というものがあります。それをしておかないと後悔する場合があります。


 ① 夫婦の共有財産・相手の収入の把握
 最近は、結婚して夫婦生活を送っていていても、他方配偶者の経済状況をあまり把握できていない方を多く見受けるようになりました。その反面で、女性の社会進出が進んだと言われながらも、家庭内の重い負担である料理作り、後かたづけ、洗濯、掃除、授乳、乳幼児の世話などの家事労働は、女性にのみしわ寄せされ続けているままです。
 離婚に際して、財産分与をして結婚生活の経済的な清算をするということの意味には、この無償で提供させられ続けてきた家事労働をも清算してもらうとを含んでいます。
 家事労働をしないまま財産形成をしてきた男性配偶者名義の財産を把握しておかないと、十分な清算をさせることができません。
 反対に、専業主婦でいながら、ほぼ家事労働を怠り続け、パートにも出ないまま、ひがな一日ぐうたらな生活をしている女性配偶者が家計管理を任されていることをいいことに、男性配偶者の給与・賞与をほぼ全額横領し続けて女性配偶者名義の口座に蓄財しているケースも珍しくありません。
 別居後、離婚成立までの生活費は婚姻費用分担金として、離婚後の子どもたちの生活費は養育費として請求していくことになるわけですが、基本的に相互の収入ベースで決めていくことになりますので、同居中に相手の収入資料は確保しておきたいところです。相手の源泉徴収票が手に入ればベストですが、所得証明書だけでもあれば、よいと思います。


 ② 慰謝料請求や交渉を有利に進める「不倫・DV・モラハラの証拠収集」
 相手に不倫などの問題行動があるような場合には、同居期間中に、素行調査を依頼するなどして、きちんとした証拠を確保しておく必要があります。同居期間中であれば、不倫相手と会いに行く予定などのスケジュールや、不審な行動をしがちな曜日や時間帯なども把握しやすいので、調査会社に依頼するとしても、ピンポイントで狙いの日程を指示しやすいため、調査費用の無駄も省けます。
 DVやモラハラの証拠確保はなかなか難しいところですが、DVやモラハラ被害は、同居中に経験するところとなりますので、その機会を逃さないように、録音録画や医師の受診などはしておければ、しておきたいところです。


 ③ 貴重品・生活必需品の選別と当面の「生活資金・新居」の確保
 別居するときに、自分の私物を全部持ち出せればそれに越したことはありませんが、まずは、別居先をどうするか、にもよります。一番、安全なのが実家です。相手が仮にDV、モラハラ配偶者であったとしても、実家にいる限り、あまり下手なことはできないからです。また、持ち帰る荷物も実家であれば、割と広いスペースがあることも珍しくありません。
 ただ、人によっては、実家には既に別の姉弟が離婚して戻っているとか、親が先に亡くなってしまい、実家は当てにできないということもあります。もちろん、子どもさんが学区域を変更したくないために、実家には移転できないという場合もあります。
 そのような場合には、賃貸物件などを確保していくことになりますが、そうなると、家は手狭となりがちですので、持っていく持ち物は必要最低限に絞り込む必要があります。
 また、当面の生活資金も確保しておく必要があります。これまで、配偶者からクレジットカードの家族カードを使って買い物をするように言われていた方も多いでしょうし、配偶者の給料が振り込まれる配偶者名義の銀行口座の管理を任されて、そこから自由に生活費を出せていたという方も少なくないと思います。
 しかし、別居が相手方に発覚すると、これまでのように自由には使えなくなる場合があります。家族カードのクレジットカードは使えなくなったり、任されていた相手方名義の銀行口座のキャッシュカードも使えなくなることはよく見かける現象です。
 そのため、別居後の当座の生活資金は、ある程度確保しておく必要があります。


 ④ 役所手続(転入・転出届・DV閲覧制限)と「児童手当」の受取変更
 別居するとなると、住所が変更することになりますから、異動届を出すのが普通です。相手方のDVやモラハラ被害がひどい場合には、行政にDV閲覧制限の措置をお願いしてこちらの住民票を取得できないようにしてもらえる場合があります。
 実家に避難できる場合には、そのような煩わしいことを気にしなくても済むメリットがあります。
 児童手当は、円満な夫婦関係の場合には、夫名義の口座に入れるようにしていることが多く見受けられますが、別居を見越して、ご自分名義の口座に変更しておければ、それがベストです。


 ⑤ 別居後の生活を支える「婚姻費用(生活費)」の請求準備
 別居生活となった場合でも、離婚が成立するまでの間は、ご自分とお子さんの生活費を相手方に請求する権利があります。同居中に明確に取り決めがあり、それが契約書のような形になっていれば、訴訟で請求することになりますが、大半の家庭では、そのような契約書の取り決めはありません。
 しかし、その場合でも、夫婦それぞれの収入に応じて、生活費を負担すべきこととなっています。気を付けなければならないのは、ご自分の主観・お気持ちで、これくらいの支出は毎月かかる、教育費としていくら、食費としていくら、外食代としていくら、被服費としていくら、というように必要支出から毎月最低いくら必要という発想をしがちですが、これは逆です。
 収入の範囲内で生活する、これが基本です。そのため、双方の収入をベースにして、婚姻費用は決定されていきます。
 別居すると、住居費もさまざまです。妻が実家に避難して、夫が住宅ローンを支払いながら、元の家に住み続けるパターンもあれば、夫が家を出て、妻の住む自宅の住宅ローンを負担しつつ、夫自身の住むアパートの家賃も支払っているパターンもあります。現実の別居の住居費負担のバリエイションはいろいろですが、婚姻費用の算定に際しては、統計上の住居費の数値を折り込んで処理しています。現実の住居支出を考慮することは少ないのです。
 そうなると、夫が、自分のアパート家賃と妻の住む自宅の住宅ローンを現実には支払いつつも、統計数値でしか考慮されない形で算定された婚姻費用を支払うことは現実には過酷で無理となってしまう場合も出てきます。そのあたりの調整はケースバイケースで、家庭裁判所の調停などで話し合っていくこととなります。

4.別居と弁護士の活用方法

 別居をどのタイミングで、どのように敢行していくかは、ご自身で決めていくよりほかないところです。特に、最近、子連れ別居をそそのかしたなどとして弁護士自身が責任を問われる判決例まで出されており、弁護士が別居問題にダイレクトに介入することはできなくなっています。
 その意味では、別居問題に弁護士が直接役に立つ時代は過ぎ去りましたが、他方で、別居前に何をしておくべきか、婚姻費用分担請求の申立て、場合によっては、仮払仮処分の申立の要否などの法律問題は、依然として弁護士に相談していただき、活用していただきたい分野です。新山口法律事務所では、このようなご相談をよくお受けしております。ぜひご活用ください。

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