モラルハラスメントのことをモラハラと略称しますが、モラハラ配偶者に悩まされて、日々、離婚しようかどうしようかと悩み続けている方も少なくありません。
そんな毎日を送っている方の中には、一緒に暮らしている子どもたちのことを考えている方も多く見受けられます。「私が我慢すれば、この家庭は丸く収まる」と思って日々を過ごしていませんか?
「見えない暴力」モラハラが家庭にもたらすもの
モラルハラスメントとは、もともとは、道徳的な価値観や行動基準を無視するような言動や行為を繰り返すことによって、被害者を傷つけたり、精神的な苦痛を与えたりする行為をさしています。労働事件などでは、パワーハラスメント、マタニティハラスメントなどとして現れ、セクシャルマイノリティに対するものでは、ソジ(SOGIE)ハラスメントなどとして現れてきます。
家庭の中でも、相手に精神的・肉体的な苦痛を与え、その人格や人格尊厳を脅かす非道な言動・行為は見られます。それが配偶者に対して行われるときは、一部、DV法でいう「心身に有害な影響を及ぼす言動」にも該当するものもあります。モラハラ行動は、継続的に行われたり、言語によるだけでなく、態度によって行われることもあります。
配偶者に対するモラハラ行動は、それがDVに該当するような脅迫行為・経済的支配・行動の制限といった目に見える形で、子どもの前で行われると、同時に、子どもに対する児童虐待にも該当します。
さらに、親のモラハラ行動が子どもに向けられると、児童相談所が介入するほどの重度の心理的虐待に至らないときでも、子どもには大きなダメージが与えられ、その後の心身の成長に大きくマイナスの影響を受けるとも言われています。
モラハラ配偶者からのモラハラ言動を、配偶者が我慢したところで、それが直接子どもに向けられてしまうと、子どもには悪影響が出かねないため、家庭が丸く収まるとは限りません。
否定や軽蔑
モラハラ配偶者が、他方の被害配偶者に接するときは、行動全般に対して否定的な評価をしてきたり、軽蔑するような言動をとりがちです。食事の支度をしてもらって、自らは家事一つできないようなモラハラ配偶者でも、出された料理に髪の毛が一本でも混入しているようなことがあると、まるで鬼の首を取ったかのように、不潔であると否定的な評価をしてきます。また、提供された料理に何の問題もないときですら、この料理はしょっぱすぎるなどと、やはり否定的な評価をしてきます。
モラハラ配偶者の言動のバックボーンは、自分の言動は正しいということです。料理の完成品には毛髪が混入していてはならない、塩味は適正でなければならないという、一見すると正しいように見える価値基準をもとにして、自分の下す評価が正しいから、間違っている配偶者を正しているというわけです。
とはいえ、飲食店と違い、保健所の許可も要らない家庭料理ですから、場合によっては毛髪が混入することは仕方がありませんし、塩系の調味料が多すぎてしまう場合もないわけではありません。そうしたことは、商売として飲食物の提供をして対価を受け取る飲食店であれば、正しい態度ではなかったということはできますが、家庭料理ですから、モラハラ配偶者が不満を持っただけで、他の家族が文句を言わないのであれば、次からは気をつけるというだけで解決する話です。家庭料理では正しいかどうかは、そもそも判断基準とはならないのですが、モラハラ配偶者は自分が正しいことを前提として、それに合致しない態度について否定的な評価をしてきます。
そのために、意思疎通もできなくなっていくのです。
無視や威圧
モラハラ配偶者は、正しいことを言っているのに、素直に従わない配偶者や子どもに対しても、否定的な評価を続けます。
あまりしつこいので、相手にしないでいると、今度は、モラハラ配偶者は、肝心なところで返事をしないか、無視をしてきます。
たとえば、野球部の部費や遠征費用が未納となっていて、早く納めたいと子どもから言われて、配偶者が部費などの納付を頼むときなどに、無視をしてきたり、さらには、「今まで俺は仕事をしてきて、帰宅したばかりで疲れているときに、なんでそんなことを言うんだ。後でもいいだろう。」と言った具合です。
後で言おうとして、タイミングを見ていると、酒を飲みすぎて寝込んでしまい、部費の納付の催促はできないままとなってしまいます。
一家の大黒柱が家族のために働いて疲れて帰宅したばかりのときには、休ませるのが正しいというモラハラ配偶者の判断基準があり、子どもや配偶者が正しくない行動をしたことへの反応が、無視や威圧として現れてくることがあります。
行動の制限
モラハラ配偶者は、たとえ自分の稼ぎが世間的にみて、あるいは家族構成員の数に照らして、かなり僅少であったとしても、自分はきちんと就労して給料を全額家計に入れているから、配偶者はそれでやりくりをこなして、貯金を作るのが正しいと信じ込んでいるケースが多く見られます。
このようなモラハラ配偶者の場合には、配偶者がパート就労などをすることは、家庭を守る責任を放棄することとしか映りません。そのような行動は、家計に給与全額を入れて貯金もできるようにしているから、正しくないのです。
そのために、モラハラ配偶者は、配偶者のパート就労の勤務先などに出向いていき、配偶者を同行して辞表を出させることもあります。
経済的支配
そして、そのような稼ぎが悪いモラハラ配偶者の場合には、給与全額を家計に入れて家族のために頑張っているという自らの正義感の満足とは裏腹に、給与の振込先口座を複数に分けておき、家計分のほかに小遣い分口座があったりして、かなりの金額を小遣い分口座に振り込むようにしていることすらあります。
家族のために給与全額を渡しているモラハラ配偶者が、自分の小遣いとして趣味のサッカーの高価な道具やユニフォーム、遠征費用、自動車関係の費用を使うことは、ささやかな楽しみとして、正しいこととされがちです。
モラハラ配偶者が趣味に出かけるための自動車は普通車、配偶者が家族のために買い物をしたり、子どもの送迎に使うのは軽自動車というのはよく見かける光景です。これも、子どもの送迎には軽自動車の方が実用できだというモラハラ配偶者の基準があります。
それならば、モラハラ配偶者が使用する自動車も普通車ではなく、軽自動車にしたら、子どもの送迎を手分けできるし、実用的ではないかと思いますが、モラハラ配偶者は、多くの場合、役割分業を是として、それは自分の役割ではないから、正しくないという判断をしがちです。
こうなると、配偶者は経済的には自由がきかず、自ら就労することすら許されず、社会的行動を大きく制限されてしまい、モラハラ配偶者から支配をされることとなります。
親の「我慢」が子どもに与える具体的な影響
モラハラ配偶者から、他方の配偶者に繰り出されるこれらの言動は、それを見ている子どもにとっても、かなりのストレスとなることがあります。子どもに直接モラハラが向けられることがあれば、そのストレスはかなり強力です。一般には、次のような問題点を引き起こすと言われているようです。
① 自己肯定感の低下と自己否定
モラハラ配偶者が正しくて、それに適合しないものは、間違っていてけしからんという状況が続いていくと、モラハラ配偶者からみて正しくない子どもの行動も大きく制約をかけられることとなります。モラハラ配偶者本人だけでなく、その意を受けた他方の配偶者である親を通じて間接的に制約をかけられることもあります。
そのような子ども自身に対する否定的な評価が家庭内で続き、それに逆らうとモラハラ配偶者が不機嫌になり、無視、蔑視、怒鳴るといった反応を示すことが常態化していくと、他者との関係でもそのような否定をされたくないため、その子どもは、防衛的に自身を自己否定し、過小評価をしていく傾向が身に付いてしまい、かえって、対人関係が円滑に築けないことになりかねません。
② 情緒の不安定さと行動の問題
また、おとなである配偶者は、モラハラ配偶者の言動に我慢できなくなれば、自ら専門の相談先に出向いて、モラハラ配偶者のマインドコントロールから抜け出して、一歩先に踏み出すこともできますが、子どもにはそれは難しいこととなります。対人関係の持ち方が未熟となりがちな、モラハラ家庭の子どもたちの場合、同様な問題を抱えている子どもたちと接点を持ちがちです。
表面的には居心地がいいからなのですが、家庭に問題を抱えた子どもたちが集まると、時として少年非行事件に発展しがちです。少年事件の背後事情には、家庭の問題があると言われる所以です。
③ 対人関係への影響とコミュニケーション能力の欠如
少年非行に発展しなくても、モラハラ家庭の子どもたちが受ける自己肯定感の低下と自己否定は、時として、別にその子どもを非難しているわけではない他者に対しても、防衛規制として、「どうせ自分なんか」という態度を生み、そこから対人関係がうまくいかなくなることもあります。
弁護士ができること
モラハラと子どもの問題は、それ自体が法律問題ではないため、弁護士ができることは限られますが、まだ子どもが小さかったり、あるいは子どもが大きくなっていても大きな逸脱行動が子どもには見られないというケースであれば、離婚事件の観点から法的に対応することが考えられます。
子どもがまだ幼少であるものの、モラハラ配偶者の言動が行き過ぎており、児童虐待のおそれがある疑いがあるときには、児童虐待事件としての対応を検討することも考えられます。
さらには、子どもが大きくなり、逸脱行動が止まらないという場合には、夫婦間の問題を棚上げにしてでも、少年事件として対応を迫られる場合もあります。
モラハラ配偶者問題は、離婚だけとは限りません。問題状況によって、別の類型の問題として、児童虐待事件または少年事件などとして対応することも考えなくてはなりません。まずはご相談ください。
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